パオ語2方言の音韻体系と,その音変化の方向性
―音節構造の観点から―
宇佐美 洋(国立国語研究所)
発表者の調査に基づき,パオ語 Khlai 方言・Pa'an 方言の音韻構造を略述するとともに,その歴史的音変化過程に,世界の他の言語にも共通する方向性が見られることを示した.
1) パオ語概要
チベット・ビルマ語派・カレン語群に属すると考えられる言語,ビルマ連邦のシャン州・カレン州等で話される.
2) 音韻論的特徴
声調:平音節に4種類,促音節に2種類.母音: 10母音体系.音韻論的長短対立はなし.子音: 閉鎖音系列に3項対立あり.有気・無気の対立にはゆれあり.
3) 歴史的音変化の方向性
超重音節 (CVVC) を重音節 (CVC, CVV) に縮約させようとする傾向あり.これにより,韻 Chauŋ は Cɔŋ に,韻 Caiŋ は Cai へと縮約したが,Cau# は Cɔ# に縮約することはなかった.