認知マッピングに対する制約と日本語の存在文
酒井 智宏(東京大大学院)
本発表ではメンタル・スペース理論の枠組みで存在述語の機能が主語名詞句で表される要素のコネクターによる対応物を他の領域に設定することであると主張し,存在述語のこの性質を利用して存在文の可能な解釈と不可能な解釈について論じた.
現場スペースの要素と一般的知識領域の要素は同一性コネクターまたはカテゴリー・個体メンバーコネクターによって結合され得る.しかし,記述「この/その/あの N」を持つ要素から記述 N を持つ要素へのマッピングは許されない.
絵を実物に結びつける「この猫はここにいる」という文が個体レベルの同一性を表す読みと下位種レベルの同一性を表す読みとで曖昧になる一方,「この太郎はここにいる」は非文となる(絵を指して「この太郎はかっこいい」が可能であることに注意).これは「この N」から N へのマッピングの禁止と存在述語のコネクター設定指令とにより説明できる.