ツングース諸語における「使役」を示す形式について
風間 伸次郎(東京外国語大)
ツングース諸語のウイルタ語の接尾辞 -boon- は使役も受身も意味しうる,とされてきた.しかしさらにどちらとも言えない例が見出される.各々「非意図的で再帰的な用法 (1)」及び「主語不転換の用法 (2)」とみる.ナーナイ語でも同様の例がある.((3),(4)).
(1) | ŋaalabi | kitaanǰi | goči | lukp-auč-čini. |
私の手に | 針が | また | 刺さった. |
(2) | ǰeewi | pəlim-bɵɵ-či-mi | ərkəulleeni |
相棒が | 急いでいるのに | 彼はゆっくりする. |
(3) | moowa | tami | nasalčiji | toiko-waaŋ-kimbi, |
薪を | 扱っていて | 目へ | 当たったのよ, |
(4) | pondaǰooji | tui | um-buwəən-dəə | xamasi | mocogoraa | pərgəxəňi |
末の妹に | そう | 言われて | 後ろへ | 戻って | 試してみた |
ゆえに問題の接辞は,ある事態と主語でとりあげた名詞とを単に結びつける機能しか持たず,使役や受身などの意味は文脈や名詞と動詞の諸関係で決定されると考える.