古代ギリシア語における完了形とその印欧語的分析
古田 育馬(筑波大/日本学術振興会特別研究員)
印欧語の完了形は,本来は単なる過去ではなく過去の行為の結果による状態を指したものであり,これはラテン語の meminī 「記憶している」や ōdī 「憎む」に如実に表れている.これは,ギリシア語では ἐγρήγορα 「目覚めている」や πέποιθα 「信を置く」等に表れており,またその現在形は ἐγείρομαι, πείθομαι のように中動で,印欧語では完了形は本来中動的状態相だったのである.さらに εἴωθα「常である」や γέγωνε (Od.5.400)「聞こえるように叫ぶ」のような ō 階梯を持つ特殊な完了形は,アヴェスタ語の cikōitərəš/cikaitrš/ (p1.3) 「思う」の複数 o の階梯の完了とともに,能動単数 ō 階梯:能動双複数・中動 o 階梯という static inflection に遡るものであることを示し,印欧祖語におけるその存在と起源を説いた.