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インドネシア語の動詞 dilihatnya(見る,見える,見られる)の談話的機能

安田 和彦(名桜大)

インドネシア語において,語根に接頭辞 di- が付加された形の動詞(以下,di-形動詞と表わす.)を用いた構文は,その主語に動作の及ぶ対象 (patient) をとるという受動態と理解されうる統語構造を持つ.しかし,実際のテクスト (text) 中では,受動態が果たすべき談話的機能を示さない場合も多い.

本発表は,di-形動詞の中から語根 lihat(見る)に接頭辞 di- と行為者指示三人称代名詞接語形の -nya が付加された動詞 dilihatnya を取り上げ,その dilihatnya が実際のテクスト中で,どのような談話的機能を持ち,どのような表現意図を表わすために用いられているのかを,主に話者の視点,叙述の客観性という点から結論づけるものである.

Kepalanyaberatmengentak-entak.
頭   彼重いズキズキする
Lebihsukaiamerebahkankepalakembalikeatas
もっと好む倒すまた~へ
bantalnya,tapidilihatnyaisterinyadatang.
しかし見る  彼彼の妻やって来る

-Ali,Muhammad.1976. "Buku harian seorang penganggur." in Muhammad Ali. Buku harian seorang penganggur. Jakarta: Pustaka Jaya.
彼は頭が重くてズキズキしていた.むしろ彼はもう一度枕の上に頭を乗せたかった.しかし,妻がやって来るのが見えた.
注: 太字体が di-形動詞の語根部分を,斜字体部が主語を,また,下線を引いた語はテクスト中で同一指示の関係にある.

このような類の文においては,dilihatnyavの後ろに置かれる主語が最も重要な情報を表わし,dilihatに前接する -nya が主題を指示し,話者の視点は -nya の指示する主題の人物の視点に移動している.

つまり,インドネシア話の語根 lihat(見る)に接頭辞 di- と行為者指示三人称代名詞接語形 -nya が付加された動詞 dilihatnya は,作者の視点が -nya の指示する人物の視点に移動している時,-nya の指示する人物の主題性を保ち,主題の人物が目の当たりにした情景,状況を主語として,最も重要性の高い情報として提示し,その出来事としての意味を暗示しようとする発話意図を表わすのである.

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