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格交替と属性理論: 可能構文を中心とするケース・スタディ

中村 裕昭(海上保安大)
藤田 健(室蘭工業大)
橋本 喜代太(聖和大)

本研究は可能構文における意味的に多様な項に対する「が」格付与と「が/の」交替現象を考察したものである.可能構文では従来から指摘されていた目的語だけではなく,「この包丁が/で野菜が/をよく切れる」とか「呉湾が/で良質の牡蠣が/を豊富に獲れる」のように副詞的な意味役割を持つ項も主格標示され得るし,主格標示が可能な項はその名詞化構文において全て属格で標示されることができる.

我々は,日本語における「が」格および「の」格の付与が一種のデフォルトとして,すなわち,叙述関係の成立により認可されるとの観点からこれらの格の認可条件について検討した.Chierchia (1984, 1985) などによる属性の理論では,VPが「属性 (property)」を指示すると仮定される.属性は二つの実現様式を持ち,一つは述部であり,もう一つはそれの名詞化表現である.我々は,VP(=述部)が定形である場合,その属性が適用される対象として名詞句が主格で標示され,対応する名詞化された属性に対しては属格で標示されると主張した,さらに,この叙述関係の成立に関して「主格または属格標示された名詞句が指示する個体が述部が指示する集合の成員でなくてはならない」という意味的条件の必要性を指摘した.即ち,「この包丁」や「呉湾」がそれぞれ「(野菜を)よく切れるもの」「(牡蠣を)豊富に獲れるもの(ところ)」という属性を有するということにより,主格および属格で標示されることが可能になる.

主格または属格の名詞句が叙述関係の成立により属性という未充足の命題関数を満足するということを,文およびその名詞化の根本的な構成と見なすことにより,デフォルト格としての「が」および「の」格の認可の条件が明らかになり,同時に統語形式と意味解釈の間の透明な関係が確立される.

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