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韓国語の母音対立の機能負担量と音韻変化
―母音 /e/ と /ε/ の融合を中心として―

陳 南澤(東京大大学院)

本発表は韓国語の母音の対立の程度を辞典 (lexicon) での minimal pair の数をかぞえる方法で測ることにより,音韻変化の一つの要因としての機能負担量の役割を明らかにすることを目的とする.機能負担量 (functional load) とはある言語単位あるいは対立の利用度として定義できる.この分析結果によって韓国語の母音対立をより立体的に把握でき,このような内的特性が融合の1つの要因として作用できることがわかる.つまり,この分析結果は対立が消失する時,どのくらい混乱が起こるかを示す指標といえ,機能負担量が大きいほどその対立を維持する必要性も大きくなると仮定できる. 分析は韓国放送公社 (KBS) 編著 <韓国語発音大辞典 (1993)> の見出し語65,291個の音素表記を分析対象とし,8個の単母音の対立のペアの最小対立語の数をかぞえる方法で測定した.分析は visual-C で作ったプログラムを利用し,IBM互換コンピュータで行った.

分析結果,韓国語で最も対立が多いのは a:ə の 2,033 個であり,母音 /a/ は全体的に他の母音との最小対立語が多いのがわかる.また,/ɯ/ の他の母音との最小対立語の数が非常に低い点も興味深い特徴である.さらに,/e/ も他の母音とあまり対立をなさないことがわかる.

さて,ソウル方言の音韻変化のうち,最も著しい変化である /e/ と /ε/ の融合は,母音体系においての圧力と共にこの母音対立の機能負担量が小さい点が融合の原因としてあげられる.すなわちこの対立が融合しても,これによって生じるコミュニケーションでの混乱が少なく,よって融合に抵抗する力が弱いといえる.

次の表は母音対立を最小対立語の数が少ない順序で奴べたものである.括弧内は最小対立語の数を見出し語の数 (65,291) でわけた後,1,000 をかけた価である.

ɯ-e 12 (0. 2) ɯ-a 585 (9. 0)
ɯ-ε 119 (1. 8) ε-i 652 (10. 0)
e-ε 197 (3. 0) ε-a 775 (11. 9)
e-ə 206 (3. 2) ε-o 805 (12. 3)
ɯ-u 228 (3. 5) o-ə 886 (13. 6)
ɯ-i 248 (3. 8) o-i 958 (14. 7)
ɯ-o 300 (4. 6) ə-i 1084 (16. 6)
e-o 343 (5. 3) ə-u 1166 (17. 9)
ε-ə 344 (5. 3) u-i 1214 (18. 6)
e-u 358 (5. 5) a-i 1346 (20. 6)
e-a 372 (5. 7) u-o 1378 (21. 1)
ɯ-ə 382 (5. 9) a-u 1663 (25. 5)
e-i 431 (6. 6) a-o 1726 (26. 4)
ε-u 534 (8. 2) a-ə 2033 (31. 1)
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