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インドネシア語の -nya と itu の前方指示機能の比較

内海 敦子(東京大大学院)

本発表では,インドネシア語における -nya の前方照応機能に注目し,その意味の範囲を考察した.

インドネシア語の clitic の -nya は歴史的・比較言語学的に,3人称単数代名詞の cliticized form と確認されているが,様々な品詞に後援し,後接する品詞によって様々な意味を表す.-nya は普通名詞につくと,

  1. 1人称以外の所有を表す
  2. 「定」を表す表現
  3. 文副詞を作る

の三つの機能を持つが,本発表では 1. と 2. に焦点を当てる.

第一に,1. と 2. の -nya が表す定表現,所有表現は,先行する言語的に現れた名詞によって示される事物,あるいは非言語的文脈から推測できる事物がなければ成り立たない表現なので,共に前方指示機能を担うといえる.注目すべきは 1. と 2. の区別のつかない用法がよく見られることであり,-nya が先行文脈や発話場面の非言語的文脈にあらわれる事物であると明示するマーカーである可能性を示唆する.

第二に発話場面において,非常に顕著なもので,しかも行為や注目の対象になっている事物を表す名詞には,-nya が付くことが適格だと見なされる.

第三に -nya は,先行文脈に全く出てこない事物に後接し,特定性を表すことはできない.-nya が名詞に後接できるのは,その名詞の指し示す事物が言語的か非言語的に,既に与えられている場合である.先行する文脈や,非言語的文脈に非常に顕著である事物,もっとも典型的には -nya が後接した名詞の指し示す事物が,先行文脈に現れた事物に所有される関係にある場合である.

以上から,-nya は mental space において一番顕著なものである reference point であることを示すマーカーであり,givenness と関わりを持つと考えられる.

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