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派生の経済性と wh 島効果における主語と目的語の非対称性

西前 明(明治学院大大学院)

本発表では Chomsky (1995) を中心とする極小理論の枠組みで,英語の wh 島効果における主語と目的語の非対称性を原理的に説明することを試みた.極小理論の枠組みでは,wh 島違反現象を最短連結条件 (MLC) によって説明することが提案されている.しかし,MLC だけでは問題の非対称性を捉えることはできない.そのよく知られた非対称性は,GB 理論において多くの関心が向けられ,理論の精密化を促した重要な問題の一つであった.GB 理論でこの現象は「統率」の概念に基づく空範疇原理 (ECP) によって説明されたが,「統率」が破棄された極小理論では別の説明法が必要となった.初期のミニマリスト分析では,*標示と連鎖の同質性に基づく中間痕跡削除による説明が提案された.しかし,中間痕跡を決定的に利用するその分析は,wh 移動による最大投射への連続循環的付加を前提としているが,そのような操作は最新の枠組みでは疑問視されている.そこで本発表では従来の分析に代わり,「空補文標識と Tense は辞書内で選択的に付加されて [c C T] を形成する (Lexical C-T Adjunction),さらに,この操作の適用の有無は numeration を区別する要素とはならない」という仮説を立てた上で,派生の経済性に基づく分析を行なった.すると,wh 島からの主語摘出による強い逸脱性(いわゆる ECP 効果)は,MLC 違反に加えて与えられる "less economical" すなわち,「移動操作がより少ない他の派生に阻止される」という status に還元できた.(一方,目的語摘出の場合は MLC 違反に留まる.)派生の経済性は極小理論の基本概念であり,また Lexical C-T Adjunction については,Belfast 方言の for-to 不定詞から独立した(“目に見える”)証拠を与えた.これらが正しければ,少なくとも本発表で扱った現象については,*標示や中間痕跡削除等の仕組みや,統率,ECPといった概念,原理はいずれも不要となる.

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