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アッカド語のいわゆる来辞法について
―文学作品における代名詞の接尾形の前に現れる来辞法 (VENTIVE) の分布―

森 若葉(京都大大学院/学術振興会)

アッカド語は紀元前三千年紀半ばから,紀元後一世紀までの資料が現存する古代メソポタミアの言語である.

アッカド語の VENTIVE はシュメール語の影響によって,一人称の与格接尾形から発展したものであるとされ,その基本的機能は移動を表す動詞に後続し,その移動の方向が話者の方に向かうことを表すものである.一方,文学作品を中心として,直接話者への移動と関わらない多くの VENTIVE の存在も知られている.

本発表では VENTIVE の数多くの用例のうち,文学作品の中で,与格目的語を表す代名詞の接尾形(与格接尾形)に先行する VENTIVE の接尾辞の分布を観察する.

アッカド語において,与格接尾形は到着点,受益者等の意味を表すと考えられ,使役を表す語幹(D語幹とŠ語幹)においては,さらに被使役者を表しうる.

発表者の資料(「ギルガメシュ叙事詩」「アトラ・ハシス」「イシュタルの冥界下り」)の範囲では,与格接尾形に先行する VENTIVE の接尾辞の分布は以下のようになる.

VENTIVE の分布は与格接尾形の表す意味によって,ある程度偏りがある.特に使役を表す語幹では,VENTIVE の接尾辞が現れた場合,与格接尾形は受益者を表し,現れない場合,被使役者を表すと考えられる.

このことから,単独の与格接尾形と VENTIVE を伴う与格接尾形に意味・機能上の差を認めないとする従来の見方は必ずしも妥当ではないと考える.

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