中国語の結果合成動詞の構造について
沈 力(同志社大)
中国語の V1-V2 結果合成動詞に見られる1つの重要な問題として,V1 と V2 のどちらが主要部なのかという問題がある.従来の研究では,結果合成動詞の諸現象を統一的に解釈し,一貫性のある説明を与えようとする試みはなされていない.本発表では,合成動詞を形成する以前の語彙レベルの V1 と V2 のそれぞれの項構造に注目し,より詳細な分析を施すことによって,V2 が結果合成動詞の主要部であることを提案する.この提案は次の5つの観察から得られたものである.
観察1,中国語の動詞はアスペクト性の点から大きく活動動詞と非活動動詞に分けられる.
観察2,1項活動動詞と1項非活動動詞はそれぞれ異なるパターンで2項動詞と対応する.活動動詞の場合は (1) の対応関係であり,非活動動詞の場合は (2) の対応関係である.
(1) 内項増加型(Yは新しい項を指す)
<X>: <X <Y>>
(2) 外項増加型
<X>: <Y <X>>
観察3,活動動詞と非活動動詞は結果合成動詞において,(3) のように分布している.
(3) a. 活動動詞 +非活動動詞
b. 非活動動詞+非活動動詞
観察4,結果合成動詞が外項増加型という (2) の項構造を持っていることが観察される.
観察5,V1 の項構造を受け継ぎながら,V2 のアスペクト性を受け継ぐという結果合成動詞がある.その場合の V2 は単に[+結果]という素性を持つアスペクトマーカーであり,項構造に対して無指定であると考えられる.
以上の観察から,結果合成動詞は外項増加型の項構造を持つ点と,非活動動詞のアクペクト性を持つ点で,V2 の特徴を継承していると言える.従って,結果合成動詞の主要部は V2 であると主張することができる.