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アイヌ語タライカ方言と北海道方言の間に見られる/r/と/t/の対応とその例外について

高橋 靖以(北海道大大学院)

アイヌ語タライカ方言は,カラフトの中部東海岸に位置する.この方言の/t/は,北海道方言の/r/に対応することが既に知られている.この対応は,語頭において(例. tek「ひげ」―北海道方言の語形はrek),或いは語中で n に後続する場合(例. kisantap 「みみたぶ」- kisanrap)に現れ,/i/の前では/c/が対応する(例. ciyap 「二歳の子グマ」― riyap)./n/に後続する場合を除く語中と,語末では,/r/が対応する(例. car「口」―car).また,タライカ方言の/t/は北海道方言の/t/にも対応する(例. tek 「手」― tek).以上から,この対応は,歴史的には北海道方言の/r/の方が古い形を保っていると考えられる.

しかし,きわめて少数ではあるが,この規則に合致しない例が見出される.例外の第一として,語頭に/r/を有する語が三例記録されている.reppis 「三つ」,ramuhu 「胸,心(所属形)」,rekut 「のど,くび」.ただし,それぞれ teppis,tamuhu,tekut という語形の記録もあり,語形のゆれを示している.第二として,語中において,/r/に対応した/t/を有する taptap 「胸骨」(北海道方言の語形は raprap),tamtam 「うろこ」(北海道方言の語形は ramram)という語が記録されている.これらは,重複によって同一形式が反復されたために生じた例外と考えられる.第三として,/n/に/r/が後続した語が一例見られる.tumanrupone 「背骨」.

また,タライカ方言とは異なり,一般に,他のカラフト諸方言の/t/は,北海道方言の/r/に対応しないが,語頭において,/t/が/r/に対応した tetara 「白い」(北海道方言の語形は retar)という語が,カラフト諸方言で記録されている.この語のみに生じた音変化と見られ,カラフト諸方言の音変化を考える上で注目すべき例の一つといえる.

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