「他動性」と古代日本語のヲ格標示
伊土 耕平(九州女子大)
古代日本語においては目的語を標示するのにヲ形とゼロ形 (ø) とがあった.10世紀頃(平安前期)の散文作品から採った1500件ほどのデータでは,量はだいたい半々である.このデータを使って,Hopper & Thompson (1980) の「他動性」の10個の要素を検証したところ,「個別性・完結性・参加者2個」がヲの標示率が高くなった(つまり他動性=高).かつ,これら3要素を1つのグループと考えたとき,「高」が多いほうが他動性が高くなる,と単純に言うことができる.つまり,自動性と他動性を連続的に捉えることができる.要するに,H & T の「他動性」の10要素は,きっちりとした1つのセットと考えるべきではなく,そこから必要に応じていくつかの要素を選ぶべき“カタログ”的なリストである.