上ソルブ語クロストヴィッツ方言の名詞と動詞の双数形
笹原 健(東京大大学院)
上ソルブ語の動詞の人称語尾は,双数においては二人称と三人称の区別がなく,-taj と -tej の2つが区別される.標準語とされているバウツェン方言では,この区別は主語が人間の男性であるか(-taj),それ以外であるか(-taj)によって決まる,すなわち意味的な要因によるといわれているが,この方言においては,この基準だけでは説明できない.本発表では,上の2つの三人称双数語尾の分布を検討した.その結果,双数主格形か -aj である無生物男性名詞にも,その音に牽引されたかのように -taj を要求するものが認められた.動詞が -taj をとるのは,2つのものをあらわす名詞(句)が主語で,少なくともその一方が
(i) 男性の人間の場合,
(ii) 双数で動詞の人称語尾 -taj と一致するものである場合
にまとめられる.以上のことから,-taj の選択の際には意味的な要因のほかにも音韻的要因がはたらいている可能性が指摘される.