現代キルギス語の使役文
大崎 紀子(京都大大学院)
キルギス語において,使役接尾辞 -gïz- と -dïr- は,接続する動詞語幹の形態的・音韻的な条件により相補的に分布するかのように記述されてきた.しかし,同じ動詞語幹に各々の使役接尾辞が接続し,二種類の動詞使役形が存在する場合が少なからずある.そこには微妙な意味の違いが観察される場合があり,その使い分けパタンとして,(1) 再帰用法専用の動詞使役形,(2) 自動詞使役形と他動詞形の区別,(3) 二重使役と単純使役の区別,(4) 行為遂行の主体性の違い,などが挙げられることを指摘した.また,キルギス語の使役文の全体を概観する意味で,自動詞使役文,他動詞使役文,二重使役文各々について,被使役主体がどのょうな格で表示されるかという観点から考察を行い,特に他動詞使役文に関して,二重与格及び二重対格が認められる場合について述べた.更に使役文が再帰的な意味で用いられる場合についても具体例を挙げて述べた.