連体修飾構文中に現れる複合辞トイウの機能
渡部 泰門(東北大大学院)
日本語の,修飾部に述語を合む連体修飾構文には,以下に示す (1) のように,修飾部と主名詞の間にトイウが必ず介在しなくてはいけないものと,(2) のようにトイウが介在してはいけないもの,そして (3) のように介在してもしなくても容認性が保たれるものの3種類がある.
(1) 天国にはユーモアがない という/*φ 言葉.(五木寛之『生きるヒント2』,文化出版局,p. 210)
(2) 展示室の中央にある φ/*という ベンチに腰をおろした.(落合恵子『バーバラが歌っている』,朝日文芸文庫,p. 105)
(3) 食べた φ/という 話.(松本 1994 : 126)
このような構文にトイウが介在し,かつ容認性が保たれている場合,修飾部と主名詞とは「対称的関係」にある.対称的関係とは,(1) や,(3) にトイウが介在した場合に成立する,修飾部と主名詞が「=」で結ばれる関係をいう:
(1') 「天国にはユーモアがない」=「言葉」
(3') 「食べた」=「話」
いっぽう,トイウが介在せず,しかも容認性が保たれている場合,修飾部と主名詞とは「非対称的関係」にある.非対称的関係とは,(2) や,(3) にトイウが介在しなかった場合に成立する,修飾部と主代名詞とが「=」で結ばれるのではない関係をいう:
(2') ベンチが展示室の中央にある.(主―述の関係)
(3") 食べたときの話.(製品(=「話」)とその素材(=「食べた」)の関係)
上述のような,修飾部と主名詞の意味関係とトイウの介在の有無との一対一の対応から,トイウには次のような機能が有されているとの結論を得る.
(4) 対称的関係にある修飾部と主名詞の間のつなぎのことば.