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ナラティヴにおける時制の使い分け: 発達段階からみた日本語と英語の比較対照研究

櫻井 千佳子(日本女子大大学院)

この研究は,同じ絵について表現している日本語と英語のナラティヴ・ディスコースについて,発達段階を追って調査し,それぞれの言語に特有の語り方を習得していく過程を明らかにする研究の一環である (Sakurai 1994, 櫻井 1994, 1995).本発表では,特に日本語の「る」形と「た」形,英語の現在形と過去形に焦点をあて,それぞれの言語においてのこれらの形式の使い分けかたの相違を明らかにした.本発表の目的は,同じ絵を語っている物語文の中での,日本語のテンス形式の「る」形と「た」形の使い分けと,英語のテンス形式の現在形と過去形の使い分けの分布の類似点及び相違点を分析することによって,各言語に特有のテンス形式の指標的機能を習得していくことを明らかにした.

結果として,3歳から5歳の段階では日英語で動詞に内在する相の種類によって時制を使い分けることが明らかになった.9歳の段階では日英語で過去のテンス形式を一貫して使っていることがわかった.大人の段階になると,日本語では過去のテンス形式「た」形を使っているのに対して,英語では現在形と過去形が混在して使っていた.つまり,現在形で物語のあらすじにかかわる foreground information が示されていて,過去形で傍系の情報や絵の中で明らかに描かれていない background information が示されていた.この英語の使い分けは,語り手がその情報を grounding の面でどのように判断しているかという視点を指標 ("index") していると考えることができる (Silverstein 1976).つまり英語の話者は,現在形と過去形の指標的機能を習得していると考えられる.一方,日本語では,「る」形と「た」形の使い分けには英語でみられたような grounding を指標するような機能がないと考えられる.

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