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限定・非限定の連続性
―アラビア語の場合―

榮谷 温子(東京外国語大大学院)

正則アラビア語 (al-fuṣḥā) では,限定名詞は形式の面から明確に定義されている.即ち,代名詞,固有名詞,指示詞,関係詞,定冠詞 al を伴う名詞,或いは以上のうち一つを支配し構成位相にある名詞("kitābu-hu" 「彼の本」の kitābu「本」等)の六範疇だが,"rubba-hu rajulan (many a man)" の代名詞 -hu (彼)は非限定であり,必ずしも形式では割り切れない.

また,限定名詞句は,聞き手が与えられた情報により特定できる指示対象を,唯一指示と総称指示とを包括した意味で,特定指示的に指示するが,その逆は必ずしも真ならずで,"ʿāman ˀawwala(先年に)" は,非限定の形式を取ってはいるものの,聞き手がその指示対象を特定することができる.

更に,冒頭で「限定」と一括りにした諸範疇間にも限定度の差のあることが論証されており,同時に非限定名詞句も,一般化(否定の文脈で「どれも~ない」の意を持たす)や特定化(形容詞・前置詞句による修飾・非限定名詞を支配する構成位相等)で限定度が高められる.

このように見てくると,任意の名詞句の限定性は,「より限定的 (more definite)」「より非限定的 (less definite)」と相対的に把握するのが適切と言えよう.

加えて,この考えは,名詞文の主語と述語,状態 (ḥāl) の主体と状態,という限定―非限定の組合せが原則の構文の説明に応用される.一般に両者の限定度は,以下の関係にある:

名詞文の主語
状態の主体
名詞文の述語
状態

"hāðā Muḥammad (こちらはムハンマドだ)." のような例外もあるが,これは指示詞の現場指示力が,その限定度の低さを補ったものと考えられる.

以上,限定・非限定は,二項対立的概念でなく,度合いの差として捉えられる,と言える.

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