「てあげる」構文への一考察
山橋 幸子(札幌大)
補助動詞「てあげる」は,利益の授与を表すと一般に言われる.しかし,「魚は三枚におろしてあげます」のように,授受益の関らない場合もあり,又,受け手の定義など,先行研究では,「てあげる」構文が必ずしも明確とは言えない.本研究は,「てあげる」は授受益表現ではなく,「誰かに対する愛情・同情・思いやりなどの感情からする行為を誰かに与えることを表す」と位置づけ,(i) 「てあげる」の意味情報には,基幹行為の参与者とは別の概念としての行為の受け手及び行為の動機である愛情の対象者があり,お互いから独立していること; (ii) 行為の受け手は「に」格で表され,愛情の対象者は「のために」や「の代わりに」等の特定の形式と関ること; (iii) 行為の受け手及び愛情の対象者が文中に現れない場合は,文中の要素を基にする解釈の問題であることを,動詞の意味情報が形態的に必ずしも現れないという仮説に立ち,主張する.