日英語における複合語の諸特徴について
―動的視点から-
小松 千明(お茶の水女子大)
日本語と英語では複合語の可能なタイプが異なる.日本語では2つ以上の動詞の結合から或る複合動詞(V-V 複合動詞)が生産的であるが,英語では生産的ではない.逆に,英語では前置詞や小辞を含む複合動詞(P-V 複合動詞)が可能であるが,日本語では不可能である.本発表では,Kajita (1977,1997) で展開されている動的文法理論に基づき複合語形成規則を規定するという仮説を提案し,この仮説により上述のような言語間の違いを説明することを試みた.具体的には,移動という概念を構成する意味要素のひとつである移動の経路が日本語では動詞によって表現されるのに対し,英語では基本的に前置詞や小辞で表現されることに着目し,このような移動表現にみられる特徴がそれぞれの言語における複合動詞の可能なタイプ(V-V 複合動詞か P-V 複合動詞か)を決めるひとつの要因となっていることを議論した.