母音挿入の default 母音の心理的実在性
大竹 孝司(獨協大)
日本語は特殊なものを除けば子音連鎖が認められない音節構造を持つ言語の一つである.このような子音連鎖が含まれる単語を日本語に取り入れる場合には,母音挿入を行うことで容認可能な音節構造に変化することが知られている.日本語の多くの研究では,母音挿入に用いられる母音は一部の環境を除けば基本的には /u/ の母音が選択されることになっているが,その心理的実在性については必ずしも明らかではない.
本発表では,/u/ の母音が日本語話者にとり,心理的実在性が存在するものかどうかについてオランダ語の四つの子音連鎖(/xt/,/sx/,/kl/,/lt/)を含む一音節のオランダ語の単語を日本語話者に提示し,カタカナで書き取らせる実験を行った.その結果,子音連鎖全体では,/u/ の母音が選択される可能性が高いことが分かった.しかし,/xt/ の子音連鎖では,先行の母音が前母音である場合には /u/ の母音が選択される可能性が高いが,そうでない場合には先行の母音の影響を受ける可能性があることが分かった.このことは,日本語の挿入母音の心理的実在性は基本的には日本語話者には存在するが,環境によっては音響的情報の影響を受けることもあり得ることを示唆しているものと思われる.