θ 理論と派生における θ の役付与
三好 暢博(東北大大学院)
θ-criterion と投射原理が連動することで,θ 位置への移動,動詞などが移動して θ-role を付与する派生などが排除されてきた.しかし,D-構造や S-構造を表示レベルとして仮定しない最小主義理論の下では,θ-criterion や投射原理は従来の存在意義を失っている.すると,この θ-criterion と投射原理の効果をどのように保証していくかということが問題となる.θ-role は移動を引き起こす要因にはならないので,単なる θ 位置への移動は,Last resort あるいは Greed の違反として排除される.したがって,残る問題は述語が移動の途中で θ-role を付与するという可能性をどのようにして排除するかということになる.本発表では,言語計算における globality をなくしていくという観点から,Merge の適用にも素性照合や選択特性という動機付けが必要であると論じ,θ-role を選択特性の一つに位置付けた.そして,この議論と構造保持の制約から,もし,述語がその投射内ですべての θ-role を付与できなければその派生は terminate するという条件を導いた.よって,述語が移動しながら θ-role を付与することが不可能となった.また,述語が移動しながら θ-role を付与できるという主張の根拠となっていた Saito & Hoshi (1994) の日本語の Light verb Construction の分析に対して代案を提示し,Miyagawa (1989) の能格名詞は "-o suru" という構文にあらわれることができないという一般化が,本発表の分析により説明されることを示した.