ロシア語の経験者与格構文と主語
山田 久就(筑波大大学院)
本発表の目的は,ロシア語の経験者与格構文の経験者与格名詞句及び主格名詞句が「主語」を認定するいくつかの規準を満たすことができるのかについて記述し,他の言語と比較することである.経験者与格構文とは,(1) のように,「経験者 (Experiencer)」と呼ばれる意味役割を持っている与格名詞句が用いられている構文であり,世界の多くの言語に存在する.
(1) | Ivanu | nravitsja | Tanja. | 「イヴァンがターニャを好いている.」 |
イヴァン (dat) | 好いている | ターニャ (nom) |
ロシア語の「主語」を認定する基準として,次のような統語現象が考えられる.1) 再帰代名詞の先行詞になれる.2) 人称代名詞の先行詞になれない.3) 所有再帰代名詞の先行詞になれる.4) 所有人称代名詞の先行詞になれない.5) コントロール述語によって要求される不定詞従属節におけるコントロールのターゲットになれる.6) 形容詞的分詞の関係節において関係節化される.7) 副詞的分詞の従属節におけるコントロ-ルのコントロ-ラーになれる.8) 副詞的分詞の従属節におけるコントロ-ルのターゲットになれる.9) pjerjed-tjem-kak 「~する前に」などの接続語によって導かれる不定詞従属節におけるコントロールのコントローラーになれる.10) pjerjed-tjem-kak 「~する前に」などの接続語によって導かれる不定詞従属節におけるコントロールのターゲットになれる.
ロシア語の経験者与格構文では,経験者与格詞句は 1)2)3)7)9) のそれぞれを部分的に満たしているだけであるが,主格名詞句は 1)-10) の全てを基本的に満たしている.ロシア語と他の言語を比較すると,経験者与格構文の経験者与格名詞句及び主格名詞句が「主語」を認定する基準のどれを満たすことができるかにおいて,ロシア語と他の言語で違いがある.