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ツアナ語の動詞のアクセントについて

湯川 恭敏(東京大)

ツアナ語 (sẹtswána) というのは,アフリカのボツアナおよび南アフリカの一部に話されるバントゥ系の言語でソト語やペディ語と一つのグループを形成する.ここで扱うのはカタ方言 (sẹkgátla) である.この言語のアクセントの一般的(音声学的)特徴として,(1) 高い音節の直後の低い音節は,それが語末にない場合,その前半(もしくは全体)が高く発音される(「遅下がり現象」),(2) 低く平らな(もしくは末尾のみが高い)単語が単独で発音される場合には,(中)高(の列)+下降+低(もしくは高)となる,といったことがあるらしく,そのため,アクセントの記述はかなり厄介である.

動詞活用形にあらわれる主格接辞は,1・2人称のそれとその他のものの間のアクセント上の違いが保持されており,対格接辞は,アクセントの点で一様に扱われるようになっている.動詞自体は,アクセントの面で2つの型に分かれる.

主な活用形のアクセントを検討してみると,次のようなことがいえそうである.

(1) 語幹に語尾 a/ile/ẹ のいずれかが後援するが,語幹 +a/ile は,どちらの型の場合も2種類のアクセントを有し,そのうちから,個々の活用形が「恣意的」に選択しているようである.語幹+ẹ のアクセントは,どちらの型の場合も一種類である.

(2) 語幹+語尾が短い場合,特殊な変異が語幹の直前のものに及ぶなどのために,短い動詞の場合,複雑に見えるが,この点での複雑さは見掛け上のものにすぎない.

(3) 一般に,2つの型の間のアクセントの差異が小さく,動詞のアクセントの型の対立の消滅を予告しているのかも知れない.

(4) 上述のアクセントの一般的特徴が,(音韻論的な)アクセント変化につながる(つながりつつある?)可能性も感じられる.

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