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方言の消失と継承
―沖縄本島北部辺土名方言の音声的・音韻的変化―

伊豆山 敦子(獨協大)
大城 ゆかり(ラボ教育センター)

沖縄本島北端・国頭村辺土名方言の祖母世代の「p 音」は,語中では [Φ] だが,語頭では弱いながら基本的に破裂音であり,これに対立する明確な [h] (~弱い [χ])がある.

[pha:] 歯,[paʃiʃi] 歯茎, [pai] 針, [pana] 花 : [ha:] 川,皮,[χata] 肩

[phi:] 火, [phi:] 屁, [pikiN] 弾く, [p'iN] ピン: [hi:] 木, [hiN] 船, [hi:] 毛

[pΦwu:] 穂, [pΦukku] 袋, [phuʃI] 星, [pΦɯiN] 降る: [hwu:] 粉, [huʃI] 後, [hui] 声

[phe:] 灰: [hɛ:nna] かいな, [pho: iN] 這う: [ho:iN]買う

孫では,[e:, o:] の前では共に [h] となり,[i] の前の [p] は [Φ] として残ったが,[a] の前では [h] に合流した.そして奥舌母音の前では [Φ] に合流し対立を失った.

更に,首里 /'uN/ 居る: 辺土名 [h~hwuiN¯] 居る cf [huiN¯] 来る

孫では「来る」は原則通り [Φ] に合流したが,「居る」は [ʔ] のつかない円唇母音 [wu] となり,音声的には姿を変えたが,この1語だけの音韻的な区別を保った.

一方,首里 /'ii-/ よい: 辺土名 [h~hii-] よい cf 首里 /'ii/ 絵: 辺土名 [ʔii] 絵

この音韻的区別は,孫では全く消失し [hi] に合流した.

祖母世代の母音は孫世代とは大きく違う.前舌母音に [i] と対立する [I] がある.

[giΦa] かんざし: [gIs(j)aʃI] 虱の卵, [kwa: γI] 桑, [pΦukuγI] 福木, [haγI] 陰

[bira] 葱: [bIi] い草; [kari:(na)?] 食べた?: [pΦɯrIi] 稲妻,傷跡

これが,動詞語幹に現れることは注目すべきである.[-kI-, -γI-, -mI-, -bI-]

更に奥舌短母音に広めの [u] と [ɯ], 中舌円唇の [ʉ] があり,出現には制約がある.

[ʔwutu] 夫 [ʔus(j)u] 臼 [mussju] むしろ [khubu] 昆布 [kʉbi] 頸

[ʔʉtʉ] 音 [ʔɯʃi] 牛 [mʉmʉ] 腿 [pabɯ] ハブ [hubI] 壁 [habI] 紙

「は」に当たる助詞 が融合した形は,中舌円唇及び奥舌母音の後ろではまだ融合しきっておらず,その音声の形は,上記母音の出現制限を考慮するなら, に対立する [*wa~o] の存在を示唆している.

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