セデック語タロコ方言の助動詞 wada
月田 尚美(東京大大学院)
wada は,他の動詞と組み合わさらないときには,「行ってしまった」「ここを去った」ということを表す.これに動詞の時制に中立な形が組み合わさって色々な意味を表す.判ったことは:
- 全ての動詞が行為者焦点形で wada と組み合わさるわけではない.
- 動詞が行為者焦点形(行為者が主格で現れる形)の場合は,次の4つの解釈が可能だ.
- 過去
- 状態の変化
- 同時に起る動作
- 連続して起る動作(あるいは目的)
動詞によって4つの解釈のうちのどれになるか(ひとつ,または複数)は決まっている.
- 動詞が行為者焦点形以外の形の場合は,必ず過去を表す.
状態の変化を表すものというのは,「(以前は~ではなかったのにいまでは)~になった」と訳せるようなもの,同時に起こる動作を表すものというのは,「~しながら行った」「行くさいに~していった」と訳せるようなもの,連続して起こる動作を表すものというのは,「行って~した」「~しに行った」と訳せるようなものである.
新しい指摘は,(1)先行研究では,過去を表わすものだけが指摘されているが,その外に,同時に起る動作や連続して起る動作を表わす例があること,(2) wada と組み合わさる動詞の形によって意味が違ってくること,の二つである.