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ユカギール語の否定文(焦点の表示に関連して)

長崎 郁(千葉大大学院)

ユカギール語の文法的特徴の1つとして,肯定文において文中の焦点の位置を形態的に表示する方法を発達させていることがこれまで指摘されてきた.本発表ではユカギール語の2つの方言のうちツンドラ方言をとりあげ,否定文においても平行する現象のあることを報告した.まず,述語,自動詞主語,他動詞主語,斜格補語,副詞句に「否定の焦点」がおかれた場合,それらの要素は否定辞 el- のあとに現われる.

(1)tudelel'-u:
否定―行く―3単
「彼は行かなかった」(Крейнович 1958)
(2)tet-in'el-metemd'eewremeten'ieewre-1
お前―向格否定―私行く―3単母―焦点行く―動名詞
「お前の所に私の妹が行ったのではない,私の母が行った」
(3)el-tudejlekpun-nun,me-t'ale-l-n'e-j
否定―彼自身殺す―継続―3単焦点―加える―動名詞―~を持っている―3単
「彼自身が殺しているのではない,助けている者がいる」(Курилов 1991)
(4)el-met-in'kelu
否定―私―向格来る―3単
「(彼は)私の所へ来たのではない」
(5)mett'uŋre-ʁanemetama:aruuel-amutneŋeju
心―目的語言葉否定―良く命中する―3単
「私の心に私の父の言葉は良くは命中しなかった(私は父の言葉はあまり気に入らなかった)」(Крейнович 1958)

形態的に特異なのは他動詞目的語に「否定の焦点」がおかれた場合である.このとき目的語は否定辞の後ろにおかれるのではなく,目的語に焦点マーカーが結合し,否定辞は動詞の前に現われる.

(6)tudelama-t'e-d-ile-kel'-bun'-mele
良い―形動詞―つなぎ子音―トナカイ―焦点否定―殺す―3単
「彼は良いトナカイは殺さなかった」(Крейнович 1958)
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