状況への指示と照応
「そこを・ところを」は状況という,イベントの一段階・場面等を照応・指示し,次のような Vendler のアスペクト分類に基づいた制約を受けている.
(i) 先行する文が「進行中」を表す「ている」形である. (e.g. (1a))
(ii) 「た」形の場合は,先行する文の動詞が achievement か,(e.g. (1b-c))
(iii) state を表すものである.但し,state の場合は長期的なものではなく,短期的なもので,主語は有生である. (e.g. (1e-g))
(iv) 副詞によって achievement と解釈できる場合も可能である.「ずいぶん」は activity の解釈を強制するので不適格になるが,「ぱたっと」は achievement の解釈を可能にするので適格になる. (e.g. (1d))
(V) もしくは,「そこ」が文脈から上の条件を満たした「~している・したところ」で置き換え可能である. (e.g. (1h))
(vi) accomplishment や activity では,「それ・そのこと」でイベント全体を照応可能である. (e.g. (1i))
(1) a. 田中は東京まで走っていた.佐藤はそこをカメラに撮った.
b. *田中は東京まで走った.佐藤はそこをカメラに撮った.(非 achievement)
c. 田中はゴールに到着した.佐藤はそこをカメラに撮った. (achievement)
d. 田中はぱたっと/*ずいぶん寝た.佐藤はそこをカメラに撮った.
e. 田中はたばこ屋の前にいた.佐藤はそこをカメラに撮った.
f. *田中は東京に長年いた.佐藤はそこをカメラに撮った.
g. *たばこが机の上にあった.佐藤はそこをカメラに撮った.
h. 田中はきっと道路を横断するから,そこをカメラに撮りなさい.
i. 田中は道路を横断した.佐藤はそれをカメラに撮った.