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現代日本語の名詞化構文の認知言語学的分析

堀江 薫(東北大)

現代日本語では,「の」・「こと」・「ところ」・「ゼロ」という4つの名詞化辞が用いられる.このうち「の」が生起上の制約が最も緩く,従って最も広範囲な環境で使用される.

(1) [山田が泣いていた]こと/を思い出した.
(2) [あの男が入っていく]ところを目撃した.
(3) [みんなが賛成した](Ø)にもかかわらず…

「の」のこのような広範囲にわたる使用を可能にしている根本的な要因は,その「無標性 (unmarkedness)」にあると思われる.「の」は,特定の語彙的意味が残存していることに起因する共起制限を有する「こと」や「ところ」に比べて,語彙的意味を有しないため,生起環境に課せられる制約がそれだけ少ないという点で「無標の (unmarked)」項であり,また一方「ゼロ」名詞化辞と比べた場合は,生起頻度の面で無標の項であるといえる.

では,ある言語形式が,他の形式に比べて無標であるということは,認知的にどのようなことを意味するのであろうか.この点に関しては「有標の項ほどより多くの注意・心理的労力・処理時間を要求する」という Givón (1990) の「認知的複雑さ (cognitive complexity)」の概念が有用である.「こと」と「ところ」に関していえば,残存している語彙的な意味が「の」に比べてより多くの「注意・心理的労力・処理時間」を要求し,「ゼロ」に関していえば,生起頻度の低さが,「の」に比べて,同定する上でより多くの「注意・心理的労力・処理時間」を要求していると考えられる.この認知的複雑さの低さこそが,「の」が他の名詞化辞よりも広範囲な環境での生起を可能にしている要因であると考えられる.

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