係助詞「も」生成の認知的基盤について
「類似情報の表示」を「も」の基本的機能とする考え方(共通認識)があるが,それが正しいとすると,以下のような「も」の用法を説明するには困難が伴う.
(1) 君もしつこいな.(2) あなたもたいへんね.(3) 南も南,赤道直下だ.
そこで,次のような「も」生成の認知的基盤を提案し,上記用法を説明する.
(4) 「も」は,基本的には,同一カテゴリーに対して先行/他者認識(内容)と現実/自己認識(内容)との間にギャップを意識し,そのギャップの原因に対して認知的卓立を認めた場合に限り生成される.
これを数式化すると次のようになる[A=先行/他者認識,B=現実/自己認識,S=総合認識 (A+B), X=任意集合,a, b=集合の元, =認知的卓立].
(5) A : X = {a}/{a,b}/{a} B : X = {a,b}/{a}/{b}
S : X ={a,b}(但し,a, b が数量詞の場合には la-bl)
この認知的基盤が説明妥当性を有していることは次の説明を見ても理解できる.
(6) 「南も南,赤道直下だ.」の生成プロセス
(他者認識):「「南」から想起する典型指数」={50%}
(自己認識):「「南」から想起する典型指数」={100%}
(総合認識):「「南」から想起する典型指数」={50%,100%}
GAP《50%》
他者認識の典型指数50%は,[+gradable] の意味素性が付与され得る語を単独に使用する場合の話者と聴者との間の暗黙の了解事項である(プロトタイプ効果).話者は,ある語が実際に指示する対象(事象)の典型指数がその数値よりも著しく高いと認識した時には(ギャップの意識),「も」生成の認知的基盤を利用して,それを表示することができるのである.
(付記)本研究は,平成6年度文部省科学研究費奨励研究A(課題番号06710322)に関わる研究成果の一部を報告したものである.