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韓国語鼻子音の非鼻音化の条件

吉田 健二(松蔭女子短期大)

韓国語の鼻子音 /m/ /n/ が母音へのわたりの区間において鼻音性を弱め破裂音声のわたりを件う音声として実現する現象を「非鼻音化」と仮称する.この現象は音節の先頭にのみ起こるが,この現象の生起を促す,あるいは阻止するそのほかの諸要因について調査報告をした.現在日本で日本語を学習中の韓国人24人の発音データを聞き取り,得点化して分析した結果,以下のような傾向があることが分かった.

(1) 非鼻音化を阻止する最強の要因はその音節中または次音節の初頭に鼻音が存在すること

(2) 母音の広狭の影響を大きく受けるがこれは母音のF1値の高さと関係する

(3) /n/ と /m/ の非鼻音化傾向は後続母音が前舌/後舌のいずれであるかによって影響を受ける.これは母音のF2値と /n/ /m/ のもつ音響上の特徴とが影響し合うためであると見られる

(4) 非鼻音化は,鼻子音が閉鎖の解放まで続くことによって生ずる知覚上の難点を,鼻音を早めに打ち切ることによって克服している,と考えられる.

(5) 非鼻音化は話者が意識しない,生起した結果 [mb-] [nd-] となっても /b/ /d/ との対立は保たれる,起こる傾向の強さが諸条件によって連続的に変化する,という点で純粋に音声学的現象である.

(6) この現象を阻止する後続の鼻音の「非鼻音化阻止力(鼻音性同化力)」は,初頭の鼻音に近ければ最強の要因として働くが,少し遠くなるとほとんど影響しない.諸言語における鼻音性が拡がっていく現象から,鼻音性の超分節要素的性格が主張されることがあるが,ことに「逆行同化」の場合には留保が必要ではないか.

(7) 音節初頭であっても文中の位置によって非鼻音化傾向が変化する.Non-categorical な現象も文法構造に関する情報を参照すると考えられる点,注目される.

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