満州語文語における可能表現について
山崎 雅人(旭川医科大)
満州語文語にはいくつかの可能表現がある.これらの特徴を漢語と比較すると,bahambi/bahanambi と bahafi~は,《得る・取る/理解する》という動詞の原義から「会・得」に,mutembi は《事をなす・よくする》という原義から「能」に,ombi は《成る・なし得る》という原義から「可」に相当する意味を持つと考えられる.また,etembi は《克つ》という原義だが,「克」が「能」と同様に用いられる漢語のなぞりからきた可能表現と見られる.これらの表現の原則的な特徴に関し,可能要因と発話者の言語意識から,以下のような分類が可能と考える.
可能要因: | |||
可能にする技能があって「できる」 | 可能な環境にあって「できる」 | ||
bahambi/bahanambi | bahambi/ | ||
etembi | bahanambi/ | ombi | |
mutembi | bahafi | ||
言語意識: | 客観的状況・事実を含意 | 許容などの主観的判断を含意 |
[例][技能・客観] jafame baharakū gafa (物を持てない手なえ),[環境・客観] banjime baharakū(暮らすことができず),[技能・客観] gabtame bahanara nadan niyalma (射ることのできる七人),[環境・客観] dain cooha de yabume bahanarakū ofi (戦争に行くことができなくなり),[技能・客観] cooha kadalaci etere niyalma (兵を管轄できる者),[環境・客観] dulembume muterakū oci (癒すことができなければ),[環境・客観] jase dalibufi bahafi donjihakū (境に隔てられて聞くことができなかった),[環境・主観] abka be holtoci ombio (天を偽ることができるか)