琉球語宮古多良間方言の中舌母音
青井隼人
宮古諸方言の音声的特徴として、摩擦噪音を伴う母音(慣習的な呼び名に従い、本発表では「中舌母音」とする)の存在が報告されている。しかし、従来の中舌母音に関する報告は、そのほとんどが主観的な観察に基づいており、詳細な音声的特徴を明らかにするための客観的手法による観察が不十分であった。本発表は、宮古諸方言に属する多良間方言に観察される中舌母音を対象に行った音響分析の結果を報告するものである。
本発表では、まず、宮古諸方言の中舌母音に関する先行研究の散発的な報告を整理し、中舌母音の特徴を要約する。その上で、発表者が現地調査で収集した音声データを提示しながら、多良間方言における中舌母音の音響音声学的特徴を検証する。その過程で、従来その特徴として指摘されていたにも関わらず、十分な観察がなされてこなかった中舌母音の摩擦噪音に着目し、どのような音声的メカニズムで摩擦噪音が発生するに至ったのかを考察する。