日本語(本土方言)の母音融合と音声素性の優位性
杉本 貴代(浜松大)
母音融合は,連続する2母音がそれぞれの特徴の一部を保持しながら単一の音色に変化する音声的現象と定義される.日本語においては和語,漢語,借入語といった語彙群の種類を問わず観察される.
本研究では,日本語(本土方言)の5母音のすべての組み合わせ,すなわち20種類の融合パターンにおいて融合が観察されることを示し,同現象のしくみを検証した.それらの諸特徴として,常に第二母音の調音場所が保持される.一方,原則として第一母音の高さが保持されるが,母音連続の高さが下降する場合に限り,第一母音の高さは保持されない.また,高母音同士が連続する場合に限り,高母音が融合形となる.
以上の観察をふまえ,本発表では母音融合における主要部の存在を主張し,最適性理論 (Prince and Smolensky 1993) の枠組みを用いて調音的かつ聴覚的に整合性をもつ普遍的諸制約の相互作用として説明した.