中国語のロバ文
伊藤 さとみ(関西学院大非常勤)
現代中国語には,wh 要素を使った特異な条件文がある.そこでは,先行節に現れた wh 要素が任意の対象を指し,それと同一の指示対象を後行節で指すときには,代名詞または先行詞と同種の wh 要素を用いる.本発表では,まず,wh 要素の現れる条件文を裸条件文と if 条件文の二種に分け,それぞれ全く異なる構造を持ち,前者は連言により結びつき,後者は含意により結びついていることを示した.また,後行節での代名詞による照応は,代名詞がもつ反最小性という特性,即ち最も近い名詞句と照応関係にあってはならないという制約に従うことと,先行説と後行説の間に見られる wh 要素による見かけ上の照応関係は,中国語の wh 要素が Infl に対して反応的である,つまり,同一 IP 内にあれば,同一指示対象を選び出す仕組みを持っているため,前後の節での指示の同一性が保証されることを示した.