極小理論における主語移動の意味
小林 亜希子(広島工業大非常勤)
Chomsky (1998) において移動を伴わない素性照合 (Agree) が提案されたことで,照合を受けた句が移動する理由を別に説明する必要が出て来る.主語は従来,格照合あるいは拡大投射原理といった形式上の理由から移動が起こるとされてきたが,その形式がどのような素出力条件から求められるのかが明らかでない限り本質的な説明であるとは言えない.
本発表は,主語移動は他の A'-移動と同様,新しい解釈を得るために起こることを主張する.この主張からの帰結の一つとして,wh 移動の局所性が統一的に説明できることを挙げる.主語位置は A'-位置なので潜在的に wh 移動の阻害要因となり,このことから様々な wh 移動の非対称が説明される.また,擬似受動文の主語にかかる意味論的制約も,本発表の分析を用いて説明される.さらに,英語の主語位置は形式でなく解釈のために作られると考えることで,日本語の主語・主題とのパラレルな分析も可能になることを指摘する.