英語の慣用表現における距離のメタファー
辻本 智子(大阪工業大)
英語の慣用表現の中には指示代名詞,とくに that を含むものが少なくない.こうした that には,相手あるいは自分の発言を指示対象とする談話ダイクシス的用法のものが多く,その使用には2種類の距離のメタファーが関わっている.ひとつは相手の発言を「遠い」とするメタファー,もうひとつは自分の発言を「遠い」とするメタファーである.2つのメタファーは全く逆の方向性をもっている.にもかかわらず矛盾なく使い分けられるのは,2つのメタファーが「導管メタファー (conduit metaphor)」という概念メタファーによって包括されているからである.本発表では,that を含む慣用表現の使用文脈と2種類のメタファーとの相関関係を考察し,メタファーが特定の言語形式の動機づけになりうることを論じる.