依頼と申出に関する社会語用論的考察
小林 正佳(横浜国立大)
発話行為としての日本語の依頼と申出に関する実証的研究である.都心及び近郊の観光スポットで,カメラのシャッターを押して写真を撮ってくれるように頼む発話行為者の現実の発話を観察・記録する方法により,どんな言語形式によって依頼意図を伝え相手への負担軽減を図ろうとするか,また「もう1枚撮りましょうか?」という申出にどう応答するかを分析・考察した.その結果,「シャッター押していただけますか?」等のような断りの余地を与える疑問文を敬意表現及びデス・マス調とともに用いて,全く未知の関係である被依頼者の消極的面子に十分配慮し負担軽減を図るという方略が極めて多くとられること,中出は6割以上の高頻度で,聞き手の有するスクリプトやプランニングなどの認知・知識構造に予期せぬ余剰的要素が不意に入り込むために「戸惑い」「驚き」の発語媒介効果を聞き手に及ぼし,「あっ」などの感嘆詞となって具現することがわかった.