フランス語代名動詞の中立用法と受動用法
―動詞意味論的視点から―
南 秀聡(京都大大学院)
本発表では,フランス語代名動詞の中立用法と受動用法の違いを,使役主と事象の関係という観点から検討した.受動用法は,英語の中間構文に相当する.一方,中立用法は,英語における使役交替による自動詞構文と振る舞いが似ている.このことから,英語の語彙的使役動詞における使役交替の条件をもとに,典型的な受動用法と,どちらの用法か判断が揺れる文について考察した.
そして,典型的な受動用法には,主語の指示対象が変化を受けないことから,使役という視点からは捉えられない文と,使役主が変化対象の状態変化に関与していることから,使役交替が不可能な動詞が使われている文とがあることを示した.一方,どちらの用法か判断が揺れる文は,動詞の意味構造と変化対象の意味構造,さらには付加要素の持つ意味構造との合成によって,使役主の事象に対する関与の仕方が変化し,それに伴って,どちらの用法とみなすかの判断も変化することを示した.