シネクドキと「全体-部分」のメトニミーに関する一考察
笠貫 葉子(東京大学大学院)
佐藤(1978)はシネクドキを「類-種」に関するものに限り,「全体-部分」のメトニミーをこれと区別するが,森(2001a,b)はこの見方を支持すると同時に,「全体-部分」のメトニミーとシネクドキの背後に同一のイメージスキーマがあると主張する.その根拠は,シネクドキにおいて「類で種を指すタイプ」(以下,「類→種」)と「種で類を指すタイプ」(以下,「種→類」)の間に「非対称性」が認められ,「全体→部分」と「部分→全体」のメトニミー間にも同様の「非対称性」が認められるという見方にある.本発表では,「種→類」が「類→種」にはない働きを持つという点でシネクドキに「非対称性」を見出す一方,「全体→部分」と「部分→全体」のメトニミーには同様の「非対称性」を見出せないという点を指摘し,シネクドキと「全体-部分」のメトニミーは「共通のイメージスキーマ」を持ち得ない異質の比喩であることを明示する.