上ソルブ語における動詞の項の再配置
笹原 健 (東京大学大学院)
本発表では,上ソルブ語における動詞の項を再配置する手続き,すなわち動詞の項の統語的関係を操作する手続きの記述を試みた.上ソルブ語ではおもに:
方法I:コピュラby. の特殊形bu-+動詞の受動分詞による受動文,
方法II:再帰動詞文,
方法III:動詞dosta.「もらう」+動詞の受動分詞による間接受動文,
の3つの方法がある.これらの方法を一項動詞,二項動詞,三項動詞の各場合に分けて検討し,項の再配置に用いられる形式と意味・機能の相関関係を明らかにすることに努めた.
巨視的に見れば項の再配置をする操作は,もとの文の項情報のうちいずれかが明示されていない場合に行いやすい.このことは,受動文の機能を考える際に有用であると思われる.意味の上では,方法I と方法III はつねに受動の意を表す一方,方法II は項の再配置,項を減らす場合を問わず,多項動詞では受動の意味に,一項動詞では不特定人称の意味として用いられる傾向が高い.