ルーマニア語における直接目的語前置構文の統語構造
藤田 健 (北海道大学)
ルーマニア語では直接目的語を文頭に置く構文が見られるが、この構文では直接目的語と同一指示の対格形人称代名詞が生起するクリティック重複現象が義務的である。これは、直接目的語が動詞に後続する無標の語順の場合には観察されない統語的特性である。
本発表では、i) 当該構文が話題化構文であり、直接目的語のDP 指定部に生起する空演算子がCP 指定部に移動する、ii) 文頭の名詞句はCP の周辺部にmerge された前置詞句であり、C 主要部がこの名詞句のφ素性を持つ、という統語構造を仮定し、C 主要部はφ素性の照合のため、空演算子と関係付けられるDP とagree するという認可条件を設定した。これにより、クリティック重複現象をはじめとする当該構文の統語的特徴が簡潔に説明されることを議論した。また、これらの仮定は関係節の分析にも適用できる一般性の高いものであることを示した。