クメール語cohの動詞用法(「下りる」)とparticle 用法(許可)の連続性
森 奏子(東北大学大学院国際文化研究科)
本発表は、クメール語のcohについて、動詞(「下りる」)用法と、命令文の文末に付加されて「許可」という話し手の心的態度を表すparticle 用法について、両者がメタファー的拡張として関連付けられるものであり、cohは同音異義語としてはなく、多義語として捉えられることを述べるものである。
まず、動詞用法内で、基本的な意味(「空間的な下方向への移動」)が、限られた場合に「(小さく、拘束された)自分の領域」から「(広く、自由な)外」へというメタファー的な意味での空間的移動を表すことがあることを示した。particle 用法では、cohは「聞き手の行為に対する支配力」が、「自分の領域」からその「外」へという移動を表しているものであり、ゆえに「許可」という話し手の心的態度を表すことになったことを例証した。したがってcohのこの2 用法は、同音異義語としてではなく多義語として捉えられることを主張する。