ティディム・チン語における否定標識
大塚行誠
本発表では、ティディム・チン語(チベット・ビルマ語派クキ・チン語支)の口語体における否定標識 =lòu と =kéi の使い分けについて報告する。先行研究でも両者を否定標識として挙げているが、具体的な使い分けに関する記述が無い。
これら二つの否定標識は、どちらも接語(clitic)として必ず動詞句に後置する。二つは、節の種類によって使い分けが見られる。主節中はどちらの否定標識も選択可能である。但し、=lòu を含む節には命令を表す助詞や後置型接語代名詞を後置する事ができず、コピュラ動詞を後置する事ができる点で、名詞的な特徴を持つ。
従属節では、名詞節や関係節、そして関係節と似た構造を持つ副詞節等、名詞的な特徴を持つ節では =lòu を選択する。一方、条件節は名詞的特徴を持たず、=kéi を選択する。その他、並立節など一部の副詞節や引用節では、主節と同様にどちらの否定標識も現れうる事が分かった。