日本語の動作主あり受身(Agentive passive)と受影性
志波 彩子(東京外国語大学大学院)
従来,受身文の主要な機能は「動作主背景化(動作主の存在を不問に付す)」であり,これと連動して,受身文は本来的にも通言語的にもAgentless(動作主なし)であると言われてきた。また,英語などの言語では,歴史的にAgentless passive から徐々にAgentive passiveを発達させてきたことが明らかにされている。
これに対し,本研究は,現代日本語の会話文に現れる受身文は,有情主語のAgentive passiveが中心であることを統計的に示した。このことは,有情主語が中心であった日本語固有の受身文が受影性を帯び,被動者に行為をもたらした相手を有責者として追及する把握を発達させていることと連関していると考えられる。また,日本語の受身文は,英語とは逆に,本来Agentive passive であったものからAgentless passive を発達させてきた可能性を指摘した。