対照の「は」が誘発する含意の習得について
照沼 阿貴子(東京大学大学院)
本発表では,日本語を母語とする子供(日本語児)による、対照の「は」が誘発する含意 (contrastive implicature; CI)の習得について考察した.Kobayashi (1992)は,実験の結果,8才未満の日本語児はCIの知識を欠くとしているが, Kobayashi の実験で子供がCIの知識を示さなかったのは,知識自体の欠如のためではなく,刺激文におけるCIの計算が困難だったためである可能性がある.そこで発表者は,CIの計算がより容易な刺激文を用いた実験(4~5 才児対象)と自然発話分析(3才児以下対象)により,日本語児のCIの知識を調査した.その結果,日本語児は3才前後からCIの知識を持つことが明らかになった. 従来, 英語の尺度の含意(scalar implicature)の早期習得が「語用論的知識の習得は遅い」というPragmatic Delay modelの仮説への反例とされてきた(Chierchia et al. (1998)等)が,日本語のCIの早期習得も同モデルの仮説を反証する.