日本語の後置詞の文法化研究における借用という視点の重要性
―多義性を持つ後置詞「ヲモッテ」を例に―
陳 君慧(麗澤大学大学院)
日本語には「格形式+動詞のテ形」を共通の形式とし、格相当の機能を担う後置詞という一群の語が存在する。日本語の後置詞の文法化研究では、動詞「モツ」から文法化したとして「ヲモッテ」がその具体例として挙げられ、詳細な考察が加えられているが、一方では「用いて云々す」「手段」という意味以外は、漢文の前置詞「以」の借用によるものとの指摘がある。
本発表は、現代日本語の「ヲモッテ」の多義性のうち、〈様態〉以外は全て借用によることを通時的な調査を通して示し、〈様態〉についても借用による既存の意味からの拡張の可能性があることを論じた。動詞の前置詞への文法化は漢文(古代中国語)に広く見られ、中には日本語の後置詞との関連が考えられるものも多い。このような借用による例は、内容語から機能語という変化の過程を経ていないので、先行研究の扱うような文法化という観点から説明するには無理があるということを主張した。