パラオ語の完了動詞と非完了動詞の対立－他動性の観点から

本発表の目的は，パラオ語の【完了動詞】と【非完了動詞】という，同一語根から派生されうる動詞形式のペアについて，それらが他動性の対立にもとづいたペアであるという記述を提案することである．

【完了動詞】・【非完了動詞】に関しては，従来，他動詞の間に存在するアスペクトの対立であるとされてきた．しかし，この記述では説明のつかない以下のような現象がある：a)【非完了動詞】は，他動詞用法のほかに，被動作主の必須性を下げ自動詞化することができる；b)【非完了動詞】形式を取る動詞には，他動詞だけでなく典型的な自動詞（一項動詞）も含まれる；c) 自動詞であれば，【完了動詞】にはなれない；d) 他動詞であっても，被動性(affectedness)が低ければ，【完了動詞】になれない場合がある．

本発表では，これらの現象を提示し，アスペクトではなく他動性という点に注目することで，矛盾のない分析が可能であることを示す．