○日本言語学会大会発表賞
第161回大会(2020年秋季,オンライン)の大会発表賞(2件)
山岡 翔氏
「ベトナム語ハノイ方言の二重母音の音韻表記について:音響的観点からの検討」本発表は、ベトナム語ハノイ方言における二重母音の音韻表記についての見解が先行研究で統一されていないという問題を取り上げ、その問題が聴覚印象によって音韻表記が決定されていることに起因すると指摘した。その上で音響的観点、特にフォルマントの特性から二重母音を分析し、実証的に音韻表記を同定した。本研究は、そのスコープがやや狭いきらいはあるものの、これまでなされてこなかったベトナム語音韻論の音響音声学的分析が着実になされているという点で新規性があり、またその明確な実証にも高い評価が得られた。今後の展開にも大いに期待できる発表であり、大会発表賞を授賞するに値すると認められた。
吉田 樹生氏
「シンハラ語における数標示の形態論的有標性と頻度」本発表は、シンハラ語において無生名詞の一部の単数形が複数形よりも有標な標示をうけるという通言語的に珍しい事実に注目し、この形態論的有標性と頻度に相関がある可能性を検証した。コーパス調査の結果、無生名詞では形態論的有標性と頻度が対応している傾向があることを明らかにした。選考部会では「無標」をめぐる理論的議論がやや不足したままデータを統計処理している点に問題が見られるという指摘もあったが、統計的手法によって形態素の特性を実証的に明らかにしようとした本研究の方向性と成果は独創性と着実さにおいて高い評価が得られた。将来性という点でも、氏は大会発表賞の授賞者としてふさわしいと判断された。
[授賞式(第162回大会,6/27,オンライン)]