第158回大会(2019年春季,一橋大学)の大会発表賞(3件)
小川雅貴氏
「局所的有生性による日本語の能動態・受動態選択:東京方言・東北方言・近畿方言の比較」能動態と受動態の選択に方言差が見られるという従来の研究成果をより精密に検討するために、10項目の他動的事態を描いた絵を用いた実験を、東北、東京、近畿の大学生に対して行い、その結果を報告したものである。課題設定はやや新規性に欠けるもののきわめて明解で、議論の展開も堅実であり、導き出された結論にも妥当性が認められる。論証のための実験方法や分析方法にやや改善の余地があるが、今後の発展が期待される研究である。発表の仕方に工夫がこらされていてわかりやすかった点も大会発表賞として高く評価される。
松岡葵氏
「言語類型論的観点から見た宮崎県椎葉村尾前方言における形容詞経験者構文の格標示」発表のテーマは宮崎県椎葉村尾前方言における形容詞経験者構文の取り得る格フレームであるが、その構文の3つの格フレーム(「主格−対格」、「主格−主格」、「主格−与格」)を現地調査で採取したデータの整理に留まらず、サンプル言語の経験者構文が取り得る格フレームという通言語的データを視野に入れて類型論的に分析した点は高く評価することができる。発表のスピードがやや速かったものの、総じて聞き取りやすく、また、パワーポイントも理解が容易であり、事前に周到に準備・練習されていたことが分かる。また、質問への回答も的確であり、調査と分析が充分になされていることが窺えるものであった。
矢野羽衣子氏(松岡和美氏)
「愛媛県大島宮窪手話における一致動詞の空間使用」手話言語には主語と目的語の文法関係を空間的に表示する「一致動詞」が広く見られるが、愛媛県大島宮窪手話の対応する動詞では、第三者同士の主語・目的語を表示する空間使用が確立されておらず、有生性や視覚的な目立ちやすさが言語表現の選択に影響していることが映像実験を通じて明らかにされた。関連現象の予備調査や統制群との比較などの調査手法や使用動画もよく吟味されていた。発表は日本手話で行われたが、映像で日本手話とも対照させながら具体的で分かりやすいものであり、質疑応答にも冷静的確に対応していた。
授賞式(第159回大会,11/17,名古屋学院大学)
(クリックすると大きなサイズの画像になります)